カタオモイ

 今朝、夢を見た。
30年以上前の話だ。 
 何度もデートに誘っても、断られたのに、夢の中では「いいよ」って彼女はOKしてくれた。
驚いて目が覚めてしまった。
 これって、いい夢なのか悪い夢なのかわからない。


 平成元年 僕は、アルバイトを二つ掛け持ちしていた。
一つはオープンしたばかりのマイカル本牧の食品売り場。もう一つはモスバーガーだ。
 マイカルには、来年オープンする新潟サティの社員が一年間の研修に来ていた。
その中に、ゆかりさんがいた。彼女は食品売り場のレジ掛かりだ。
 横浜には可愛い子が沢山いるけど、彼女は一際輝き、透明感のある天女のようだった。
 僕はバイトの休憩中にはお菓子屋や飲み物を手に、彼女のレジに並び、一言、二言話し掛けるのが日課だった。
 初めは、花火大会に誘って断られた。
 彼女には故郷で待っている彼氏がいる事を聞かされたが、それも懲りずに、話題の映画に誘い、断られた。
 開通したばかりのベイブリッチに誘い、断られた。
 断られるのを承知で誘っている。
清らかな天女には、地元の彼氏と上手くいって貰いたいと心の中では思っていた。
 矛盾しているが、
都会のアホ面したナンパ野郎の誘いなんか断って貰えて、嬉しくなり、よけい好きになった。

 僕の他にも、肉屋のにーちゃんがゆかりさんを狙っていたが、僕と同じように毎回振られ続けていた。
 バックヤードで肉屋のにーちゃんとすれ違うと、お互いメンチを切ってすれ違った。
 彼は僕を「お菓子屋のにーちゃん」と呼んでいた。僕はグロッサリーの品出し掛かりだった。
 お互い、にらみ合うライバルを演じていたが、仲が悪いワケではない。

 「俺の作るモスバーは、日本一旨いから今度、食べに来てよ。」ってゆかりさんに言った事がある。
 「私、ハンバーガーってあまり好きじゃない。」と、はっきり言われてズッコケた。
初めて断られた時は、すまなそうに、相手が傷つかないように断ってくれたが、
度重なると、断り方もストレートだ。

 食品売り場で子供が迷子になって、ゆかりさんと一緒に探し回ったり、
他店の応援に一緒に行ったりして、距離は少しづつ縮まった。

 ゆかりさんが新潟に帰る日が来た。
前の晩、仕事終わりに別れの挨拶をした。
そういう場面で、気の利いた言葉を言えない僕は、短くお礼を言って別れた。
彼女のおかげて、楽しい一年だった。

 僕は昼間はモスバーガーのバイトをしていた。
朝から、「今頃は新幹線の中かなー」とか、考えていた。
 昼のピークタイムになると、仕事に集中した。
本気でモスバーガーのフランチャイズで店を始めようかと、この頃は思っていた。
 ずらりとオーダー表が並ぶと、ガラス張りのキッチンでバーガーを作る僕は興奮する。
ショータイムの始まりだ。
無駄のないスピーディーな動きと、足踏みをしながら、急いで作ってますアピール。
美味しいモスバーガーを作るコツはミートソースをかける時の微妙なレードルさばきにある。
 新規に入ってくるお客さんにも目を配り、「いらっしゃいませ」と声を掛けるのを怠らない。
 一番忙しい時間にゆかりさんが入って来た。
 動揺しまくるが、仕事の流れは止められない。
知り合いが来たからって、アルバイトのガキじゃあるまいし、特別扱いはできない。
目と目が合った時は涙が出そうになった。
 一言も会話はできず、ゆかりさんはテークアウトのモスバーガーを持って帰って行ったが、
最後の最後に店に来てくれた事で、僕の片思いは報われた。
 カタオモイも悪くない。



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